第18回
モールタメール書店
2013/10/22 UP

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第1回 マザリーヌ書店
第2回 クーラン ダール
第3回 ミカエル・セクシク書店
第4回 オ・ザール・マジャール
第5回 書店-ギャラリー
    エマニュエル・ユタン

第6回 デ・アーシヴ書店
第7回 ドュ・カメー書店
第8回 ラ・ポルト・エトロワト
第9回 ル・ヴァンティエーム・
    エ・セ・スールス書店

第10回 アバンスラージュ書店
第11回 F.ドゥ・ノーベル書店
第12回 ドュ・パッサージュ書店
第13回 アール&リブリ書店
第14回 シュマン・デ・アール
第15回 ジュソーム書店
第16回 A バルザック A ロダン
第17回 OFR書店&ギャラリー



 パリの南部15区にあるモールタメール書店は16 ~19世紀の古地図と版画を主体にする古書店で、毎週土・日に開かれるジョルジュ・ブラッサンス公園の古本市とポルト・ヴァンヴの蚤の市へ徒歩10数分の場所に位置する。

厳密には美術古書店ではないが、都市景観や花のカラー版画、ラックに置かれた古地図を飾る店のたたずまいに何となく風格を感じる。応対してくれたカツ・モールタメール氏から「妻が第4代目となる古書店」と聞いて、やはり由緒がある店だった、と納得した。

店内 書棚と3つの壁掛け時計

書店はパリではなく、ベルギーのアントワープから始まった。小学校の教師をしていた夫人の曽祖母が1894年にアントワープで古書店を開き、2代目となる祖父がブリュッセルに移転、3代目の父が店を引き継いだが、1994年に亡くなり店は従業員が引き継いで店名を変えた。そこでパリに住む夫人が1996年に店を開き、四代続く店名を残した。壁にかかった3つの時計の下にアントワープ、ブリュッセル、パリの地名が記されているのは店の歴史を示すためだった。

店内 書棚

ご本人は地元15区で生まれ育ち、医者をしていたが、退職後に店を手伝っている、と言う。しかし話しを聞いていると古書事情に詳しく、根っからの古書好きのようである。夫人は体調を崩しているのだろうか、「次男と娘の3人で週2日づつ、店番を交代しており、長男もリヨンで古書店を営んでいる」と語るから、古書店一家であることは間違いない。

古地図コーナー

主体の古地図と版画に加えて、画家・アーティスト、医学、航空に関する稀少本も揃えており、ルネッサンス時代のブリュッセル生まれの人文学者(ヒューマニスト)で医者・解剖学者のアンドレ・ヴァサル(André VESALE。1514~1564年)の胸像まで販売している。

Katz MOORTHAMERS店主
と大航海版画カレンダー

ストックは店内に保存状況が良い3,000点を置き、残りは近くの倉庫で保存している。仕入れは個人からの購入がほとんどで、オークションでの購入はしていない。「15区は古書店が少ないから、売りに来る人が結構います。ジョルジュ・ブラッサンスの古書市場は以前は掘り出し物も出たのでよく通いましたが、7~8年前からインターネットで価格が分かるようになったためか、通う人が減っている気がします」。

17世紀発行の
「世界劇場または新アトラス」

一押し本としてまず披露してくれたのは、17世紀にオランダで発行された「世界劇場または新アトラス(Le Théâtre du Monde, ou Nouvel Atlas)」第4巻のイギリス地図のページである。保存状態が良いことに驚いたが、12巻揃いで20万ユーロ(1ユーロは約130円)という価格にさらに驚いた。

17世紀発行の
「世界劇場または新アトラス」
イギリス地図

次に取り出してくれたのは、1780年にパリで発行されたイエズス会神父の報告書簡をまとめた「外国ミッションの教訓的で好奇な書簡集(Lettres Edifiantes Et Curieuses Des Missions Etrangères)」第17巻の「長崎の地図」ページである。見出しには、中国では「チャンキ」と呼ばれる長崎(NAGASAKI appellé par les Chinois TCHANGKI)と書かれている。価格は26巻揃いで1万2000ユーロ。1780年というとフランス革命の9年前、日本では徳川家治の安永9年で、本居宣長が「古事記伝」の執筆を進め、平賀源内がエレキテルを完成させた頃である。

1780年発行の
「イエズス会神父の報告書簡」

版画では帆船、孔雀、ライオン、半人半馬ケンタウルス、恐竜などの図画を満載した「大航海版画カレンダー」を見せてくれた。18世紀前半に発表されたガリバー旅行記やロビンソン・クルーソー時代の船乗りの冒険心をかりたてるような構図である。

1780年発行の
「イエズス会神父の報告書簡」
長崎地図

 フランス古書店全国連盟Slam(Syndicat National de la Librairie Ancienne et Moderns)とフランス国内の古書店が傘下するネット販売Rare Booksには加盟しているが、国際版ネット販売AbeBooksには加盟していない。むしろ、パリのグランパレー、イギリス、ドイツ、ベルギーなどで開催される古書見本市への出店が効果的で、見本市で店を知って来店してくる人もいる。

パリの古書店業界はインターネットが一般化し、社会に根を張り出した2005年頃が変換期となったようである。

理由の1つは、価格が低下したことにある。「1990年から2005年にかけては、古書が値上がりする時代だったが、その後、価格は50%前後に値下がったため、売上げ高は減少している。幸いに、安かった時代に仕入れているので利益は出ているが、新参入者にはやりにくい時代になっている」。

2点目として、インターネットの登場で文献調査がしやすくなったため、今は、必要文献や研究書として購入する人が減少し、古書は「文献」ではなく、「自分が楽しむオブジェ(飾り、コレクション)」として購入する時代になったことを挙げる。
 この転換期に、どのような舵取りをしていくか、が古書店一家の論議の的になっている。

店名

Librairie Moorthamers

Librairie Moorthamers

住所

240 rue de Vaugirard 75015 Paris

電話

01 45 31 94 98

HP

www.katzmoor.com

店主

Marianne & Katz MOORTHAMERS

設立年

1996年

従業員

4人(経営者夫妻と次男・長女)


 

 広畠輝治   ブログ : 「広畠輝治の邪馬台国吉備・狗奴国大和説」

1948年1月
1980年
1988年


2002年4月

2009年1月

横浜に生まれる
から在仏ジャーナリスト
にプレス・ヒロハタ社設立
主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。 やきものネット・パリ通信員。
「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。
「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。

邪馬台国 岡山・吉備説から見る
古代日本の成立
広畠輝治著  2800円
邪馬台国 吉備説 ー神話篇ー
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著  4700円
  
 

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