第9回
ル・ヴァンティエーム・
エ・セ・スールス書店
2013/6/18 UP

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第1回 マザリーヌ書店
第2回 クーラン ダール
第3回 ミカエル・セクシク書店
第4回 オ・ザール・マジャール
第5回 書店-ギャラリー
    エマニュエル・ユタン

第6回 デ・アーシヴ書店
第7回 ドュ・カメー書店
第8回 ラ・ポルト・エトロワト



ル・ヴァンティエーム・エ・セ・スールス(20世紀とその源泉)書店は、レアール地区のセバストポール通りから国立近代美術館があるポンピドゥー・センターに進む表通りにあり、美術古書店としては一等地に立地する。

「この店を35年以上も経営してきたが、5年前からさっぱり売れなくなった。今の若い世代は20世紀のモダニティ(Modernité)時代には関心がなく、アンディ・ウォーホル以降にしか興味をもっていない。今は売上げは経費をカバーするだけで利益は出ていないが、昔からの友人達が毎日、話しをしにやってくるので、それが楽しみで店を続けている」。

イヴ・トゥトゥー店主

のっけからイヴ・トゥトゥ店主の消極的な言葉に面食らってしまったが、話を聞いているうちに第2次世界大戦後のフランスと南欧の現代史を生き字引のように生き抜いてきた半生が目に浮かんできた。

1939年生まれのトゥトゥ氏はパリ美大で学んだ後、当時の26か月間徴兵制でアルジェリア戦争を体験した。除隊後、絵描きとしてポルトガルに12年間在住した。ポルトガルで売れっ子の画家となり、フランス女性と結婚して息子も生まれ、順風満帆だったが、1974年4月の軍事クーデターで人生が狂ってしまった。絵を買ってくれていたコレクターたちはクーデターに連座して刑務所行きとなり、絵では食えなくなってフランスに戻らざるをえなくなった。苦境に声をかけてくれたのがレアール界隈で美術ギャラリーを経営していた幼なじみだった。

店舗正面

彼がポンピドゥー・センターの近くに店を確保してくれ、センターが開館した1977年に友人との共同経営の形でアール・ヌーボー、アール・デコ専門の美術書店として開店した。次第に絵画や彫刻関連の書籍も扱うようになり、20世紀美術の総合古書店の体裁が整っていった。

店内 中央

1980年代に入るとアメリカでアール・ヌーボー、アール・デコが流行となり、俳優ジャック・ニコルソンや歌手バーブラ・ストライサンドなどのスターも来店、日本からの引き合いも多く、黄金時代を呈したが、90年代、2000年代と次第に下降線を辿っていった。

店内 左側

ざっと店内を見回すと、ゴーギャン、カンディンスキー、マーク・ロスコ、キュービズムのピカソ、キキ、ダリ、デュフィー、デザイナーのアイリーン・グレイやフィリップ・スタークなど、名前になじみがある画家やデザイナー等の書物が目につく。店主の机の背後には、アール・ヌーボーの代表的デザイナーの一人でパリ地下鉄(メトロ)の鉄製のゲイトを造ったエクトール・ギマールに捧げる額「Hommage to Guimard 」を飾っている。
「ストックは地階も含めて7~8000点」と話しながら、地下の陳列室に案内してくれた。今でも頼まれて絵を描く時があるそうで、自作の油絵やデッサン、個展「セーヌのトゥトゥ」のポスターも保管されていた。

店内 地下

1階と地階の蔵書を拝見しながら、インターネット向けホームページを作り、各国の古書店が参加するアベブックス(Abebooks)も活用すれば、国外の顧客を呼び込むことができるだろうと感じたが、そこまで進む気持ちはないようだ。 「モダニティ関連が売れなくなったのなら、なぜ、ウォーホル以降のコンテンポラリー・アートも扱わないのですか」。 「ウォーホル以後は自分でよく理解できないから、扱っていない。言い過ぎだと思うが、現代アートは美術を百貨店のショーウインドーの装飾・飾りつけと混同・勘違いをしている気がする」。

ショーウインドー

インターネットの発展でことに文献類の古書が売れなくなったのは確かだが、フランスの美術界の問題はもっと根が深いと嘆く。
「美術大学の教師がモダニティを否定して、あまり教えなくなった。これにより若い世代は、アートはウォーホルから始まると見なすようになった。その一方で、ダリ展のように多くの人がモダニティ時代の展示会に押しかけるようになったが、通俗化してしまった点もいなめない。さらにデジタル時代の現代は情報があふれすぎて、感性が薄くなってしまった」。
「時代が一回転して、またそのうちにモダニティが見直される時代が来ますよ」と慰めると、「いや、私はアートの未来に対して悲観的だ」とため息をつく。
「店を継ぐ跡継ぎはいないから、店閉まいとなったら、この店もみやげ物屋にでもなるのだろう。確かモリエールが机に座して死ぬと語ったが、私も店の机に座り続けていく」という言葉を聞きながら、トゥトゥ氏の精神を受け継ぐ人がそのうち出現する予感がした。

店名

Librairie Le XXe Siècle et Ses Sources

Librairie Le XXe Siècle et Ses Sources

住所

4 rue Aubry Le Boucher 75004 Paris

電話

01 42 78 15 49

店主

Yves TOUTOU

設立年

1976年

従業員

1人


 

 広畠輝治   ブログ : 「広畠輝治の邪馬台国吉備・狗奴国大和説」

1948年1月
1980年
1988年


2002年4月

2009年1月

横浜に生まれる
から在仏ジャーナリスト
にプレス・ヒロハタ社設立
主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。 やきものネット・パリ通信員。
「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。
「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。

邪馬台国 岡山・吉備説から見る
古代日本の成立
広畠輝治著  2800円
邪馬台国 吉備説 ー神話篇ー
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著  4700円
  
 

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