第10回
アバンスラージュ書店
2013/7/2 UP

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第1回 マザリーヌ書店
第2回 クーラン ダール
第3回 ミカエル・セクシク書店
第4回 オ・ザール・マジャール
第5回 書店-ギャラリー
    エマニュエル・ユタン

第6回 デ・アーシヴ書店
第7回 ドュ・カメー書店
第8回 ラ・ポルト・エトロワト
第9回 ル・ヴァンティエーム・
    エ・セ・スールス書店



アバンスラージュ書店は、モンパルナス大通りの東端、ポール・ロワイヤルとルクセンブルグ公園に間近い位置にある。地味だが、オリエンタリズムやイスラム美術・文化の研究者や愛好者との絆が深い古書店である。

ショーウインドーを覗いてみると、美術本や「レバノン山」、「ゴルフ湾の歴史マップ」、「モロッコの誘い」など中近東関連が多い。サルヴァドール・ダリ、ポリネシアを描いたオクタヴ・モリヨ(1878~1931年)に演劇「テアトル・ド・フランス」なども混じっているが、店内の壁にもアラブ風の人物を描いた絵画が飾られている。どうやらオリエンタリズムなど中近東につながる美術や文化を主体に扱う古書店のようである。

店舗内 右側

オリエンタリズムと言うと、真っ先に目に浮かんでくるのはウジェーヌ・ドラクロワ(1798~1863年)である。1832年、ドラクロワはフランス政府がモロッコに派遣する大使団の随行員の一人に選ばれ、1月から6月にかけてスペイン、モロッコ、アルジェリアなどを旅行した。その旅から生まれた「アルジェの女たち」、「モロッコのユダヤ風結婚式」に見られる鮮やかな色彩効果と神秘性は同年代の画家達に多くの影響を与え、東方に憧れるオリエンタリストと呼ばれる一群の画家たちを生み出した。多彩な色彩が特徴である印象派絵画もドラクロワのモロッコ旅行から生まれた、とさえ言われる。

次第にオリエンタリズムは 西ヨーロッパにはない、異文明の物事・風俗に対して抱かれた憧れや好奇心などを意味するようになり、19世紀後半から20世紀前半にかけて、美術だけだでなく文学、歴史学、人類学など広範な文化活動へと発展していく。しかしパレスチナ出身のアメリカの批評家エドワード・サイード(1935~2003年)が著書「オリエンタリズム」(1978年)で指摘したように、「オリエント」とは西ヨーロッパによって作られたイメージであり、しばしば優越感、傲慢さや偏見と結びつくばかりでなく、欧米の帝国主義の基盤となった、という批判もある。「アルジェの女たち」などに見られる退廃的で官能的な要素も、西ヨーロッパが持った東方世界のイメージの現れとする意見もある。

アブドゥラジズ・ゴジ店主

店に入ると、初老の痩せ型で小柄なアブドゥラジズ・ゴジ店主が机に向かっていた。むっつりしていて「開店は1984年」、「開店理由はオリエンタリズムに詳しいから」、「壁に飾ってある絵画は飾りで、売り物ではない」とぽつり、ぽつりを口を開く。フランス人ではなく、チュニジア生まれのチュニジア人と聞いて、マグレブ(北アフリカ)諸国にはオリエンタリズムに関する古書が多く残っていて、それがこの店の強みになっているのかも知れない、という気がした。

一押し本 ドラクロワ 秘伝の旅

推薦本として、ドラクロワの「秘伝の旅:モロッコ、アンダルシア、アルジェリア(Un Voyage Inititique : Maroc, Andalousie, Algerie)」、ギュスタヴ・ルボン(Gusstave Le Bon1841~1931年)の「アラブの文明(Civilisation des Arabes)」(1883年刊)、画集「ZIANI」の3冊を挙げてくれた。

一押し本 ZIANI

ルボンはオリエンタリズムの対象が美術から広範囲に拡大した時期の社会学者で「インドの文明」(1887年刊)、「フランス革命と革命の心理」(1912年刊)など多くの著作を残している。「ZIANI」は1953年にアルジェリアで生まれ、現在はフランス在住の現代画家ホシン・ジアミ(Hocine Ziani)の作品集だが、幻想的、神秘的な画風はオリエンタリズムを引き継いでいる印象を与える。

店舗内 正面

この3冊が、19世紀のオリエンタリズムから始まって、北アフリカから中近東、アフリカ、イスラム系アジアなど、広域のイスラム文化へと間口を広げて現代に至るまでを扱う、この店の特色をいみじくも示しているようでもある。

店舗内 左側

「顧客は研究者、美術館、コレクターで、彼らに必要な書物や文献に通じている。インターネットの登場により、雑モノを扱う古書店は減少していく。専門特化、稀少本を扱う店のみが生き残っていく」。
ストックは店内のみと少ないが、古書見本市やパリや地方でのオークションで新しいものや稀少本を見つけた時が無上の喜び、生き甲斐でもある、とも語る。
国際古書連盟L.I.L.A.とフランス古書店全国連盟Slam(Syndicat National de la Librairie Ancienne et Moderne)のメンバーとなっており、Slamのホームページを活用して扱い書物を詳細に紹介している。

店名

Librairie Abencerage

Librairie Abencerage

住所

159 bis, Boulevard du Montparnasse 75006 Paris

電話

01 40 46 99 70

HP

www.franceantiq.fr/slam/abencerage

店主

Abdelaziz GHOZZI

設立年

1984年

従業員

1人


 

 広畠輝治   ブログ : 「広畠輝治の邪馬台国吉備・狗奴国大和説」

1948年1月
1980年
1988年


2002年4月

2009年1月

横浜に生まれる
から在仏ジャーナリスト
にプレス・ヒロハタ社設立
主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。 やきものネット・パリ通信員。
「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。
「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。

邪馬台国 岡山・吉備説から見る
古代日本の成立
広畠輝治著  2800円
邪馬台国 吉備説 ー神話篇ー
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著  4700円
  
 

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