No.22
ラルダンシェ書店
2013/12/17 UP
ラルダンシェ書店はフランスだけでなく、世界中の富豪のショッピング通りとなっているフォーブール・サントノーレの中心部、大統領府エリーゼ宮のはす向いにある。周辺に連なる高級アート・ギャラリー、アンティーク・ギャラリー、モード・アクセサリー・ブティックに並んで、パリで最も格式が高く、敷居も高い美術古書店の一つである。
3面があるショーウインドーを覗いてみると、絵画は16世紀の「ルネッサンスと夢」から「ピカソ」、「キリコ」、「20世紀の中国アート史」、プリミティフ・アートの「コンゴ盆地の秘伝」や「先祖の眼。東南アジアの島のアート」と対象が広い。「誘惑の陶芸」、「ルイ15世からアンドレ・プットマンへ」、「マラケーシュの庭園」など、工芸、インテリア・デザインや庭園などの書籍も目立つ。
場所柄に合わせてか 「60年代ファッション」、「クーチュリエ ポール・ポワレ」、「ディオール:アーティスト達の舞踏会」、「宝飾ブルガリのアート(1950~1990)」、「女王たちの宝飾店メルリオ・ディ・メレール」、「ダイアモンドの運命」などモードとジュエリー関連も多く、「パリ1650~1900」、 「消え去ったパリ名所の思い出」、「18世紀のパリ」などパリ・ガイド的な書籍もある。
これらに加えて、1750年頃に出版された「パリ名所イラスト画集(77画)」の稀少本も飾られているから頭が混乱してくる。新刊も含めた総合美術本から古典稀少本まで取り揃えているようであるが、年代やテーマに幅がありすぎて、店の特色がつかみにくい。
(Thierry MEAUDRE)店長
その疑問は「主な顧客は実業家や弁護士・医師など自由業者に代表される富裕層のコレクターで、フランスが半分、国外が半分の割合になっています」というティエリー・モードル店主の説明で解明した。キー・ワードは「富豪」で、富裕な客層の嗜好に合わせた品揃えをしているわけである。「歩いて数分の距離にあるオークション会社クリスティーズの客層と一致しています。誇りは仕事を通じて教養度が高い富裕層と接することができることです」とも語る。
ラルダンシェ書店の原点はリヨンにある。20世紀初めからリヨンに存在したポール書店(Librairie Paul)を第1次世界大戦後の1920年頃に、ポール&アルマン・ラルダンシェ兄弟が買収して書店の歴史が始まった。兄弟はパリに出てくると、フォーブール・サントノーレにある高級ホテル・ブリストルに常宿していたことから、いつかはホテルの近くにパリ支店を持ちたいと語り合っていた。第2次世界大戦後の1947年に一族の一人が現在地にラルダンシェ書店を開店した。
10年後の1956年か57年に、リヨン本店に勤務していたピエール・モードル(Pierre MEAUDRE。1932年生)氏がパリ店の管理を任され、1975年にピエールとドミニク・モードル夫妻が店を譲り受けた。店頭を飾る濃緑の日除けに「Librairie Lardanchet」と「MEAUDRE 」の名が連なっているのはこの理由による。リヨン店は25年前(1988年)に閉店となったが、モードル氏は約50年間パリ店を経営した後、息子二人が引き継いだ。書店は美術本を扱う部門と稀少本を扱う部門の2部門からなり、表通りに面する一階の美術本部門は兄ティエリー、二階にある稀少本部門は弟ベルトランが担当している。
1階の店内に入ると開店当時の売れっ子インテリア・デザイナーのドミニクが担当したインテリア・デザインがそのまま残されているが、こげ茶色の基調が落ち着きを与える。しばしばサイン会や展示会のイベントも店内で実施している。
「扱いの主力は18~20世紀の装飾アートです」と語るように、家具、陶器、オルフェーヴル(金銀細工)、インテリア・デザインなど確かにアールデコ関連が充実しているが、絵画や庭園など雑多なテーマの書籍も混じり、富裕層の好みに合う豪華本を中心にセレクトしている印象を与える。書籍の扱い点数は2,500冊と、思ったほどの多さではないが、初歩から蔵書コレクションを始める富豪や常連にアドバイスをしながら、興味を示すテーマやアーティストの書籍を棚から取り出して推薦していく、という趣向のようである。
稀少本部門の扱いはルネッサンス時代の16世紀までさかのぼる。パリ、ロンドン、ニューヨークの古書見本市にも出店しているが、表紙に19世紀末のベルエポック時代の作家ティナン(J.de Tinan)の小説「多情なニノン・ドゥ・ランクロの例(L'Exemple de Ninon de Lenclos amoureuse。1898年、Mercure de France刊。2万8,000ユーロ)」を飾った稀少本カタログを開けると、いきなり1503年に制作され価格25万ユーロもする羊皮紙を使った細密画(ミニアチュール)の絵入り暦が出てきて度肝を抜かされる。カタログには19世紀の作家マルセル・プルースト、写真家のマン・レイ、画家ミロやピカソなどの稀少本45点が紹介されている。
(制作1503年。25万ユーロ )
「プロフェッショナルに徹する限り、この業界の未来は明るいです」とティエリー・モードル店主は断言する。ホームページも充実しているが「インターネットは新しい顧客を呼び込む補完的な存在となっています」とプラス要因を強調する。
広畠輝治 HIROHATA Teruji
HP : https://www.terujihirohata.com
1948年1月 横浜に生まれる。1980年から在仏ジャーナリスト。1988年にプレス・ヒロハタ社設立。主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。
やきものネット・パリ通信員。2002年4月 「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。2009年1月 「「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。
古代日本の成立
広畠輝治著 2800円
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著 4700円