No.2
クーラン ダール
2013/3/12UP
サンジェルマン・デプレ広場からモンパルナス・タワーに向けてまっすぐに伸びる目抜き通りレンヌ通りを横切るヴォージラール通りを右に曲がって、数分歩くと深緑のペンキで彩られた店が見えてくる。書籍・エレクトロニクスの大型チェーン店フナック(FNAC)モンパルナス店の裏手にあたるが、藤田嗣治などで知られるエコール・ド・パリ時代から画家やアーチストが在住する界隈である。
店内に入ると書籍がびっしりと書棚に並び、棚の仕切りに黄色いラベルで「32G 19世紀絵画」、「31C~31G シンボリズム(象徴主義)&オリエンタリズム」など、整理番号と項目名が貼られている。
店主マリージョー・グランジャン氏は気さくで話しやすい。フランス東部の出身で、フラメンコの舞踊家を目指してスペインに留学したが、舞踊家の道を断念して1968年にフランスに戻り、パリ北部の骨董・蚤の市で名高いサントゥーアンの古書店で職を見つけた。働きだしてすぐに、古書は自分の天職だと気づいた、と淡々と語る。古書業の経験をつんだ後、1987年に独立して現在地に店を構えた。
「書店は文化を伝え残していく仕事です。画家や作家は室内で仕事をしますが、店は街中にあります。街が美しくなると、地球が美しくなり、平和になる」と屈託がない。経理や請求書作りなど事務仕事が面倒だが、書籍への愛情を持つ顧客と接しながら、常に新しいことを学ぶことが楽しみと言う。
扱う種類は、年代では13世紀のゴシック時代から現代まで、地理的にはフランス、ヨーロッパでけでなく、エジプト、日本など世界中と多岐にわたる。蔵書点数は店内に1万点、別所にある倉庫に20万点があり、そのほとんどをデータ登録・ナンバリングで整理済みだ、とこともなげに話す。
日本関連の書籍が陳列する棚を見せてもらうと、1908年発行のクリーブ・オランド(Clive Holland)著の「日本で見たモノ(Au Japon Choses Vues)」 、「広重の風景画(Hiroshige Paysage Célebres)」 、「日本アートに見る女性(La Femme Dans L'Art Japonais)」、
「能の衣装コレクション (Collections of Noh Costumes)」、「石踊達哉画集」、「源氏物語絵詞(絵・石踊達哉、詞・瀬戸内寂聴)」などを取り出してくれたが、最近は日本の武具と根付(ねつけ)に関する問い合わせが多くなっている。
自慢の分野はオークション・カタログ、ことに19世紀のオークション・カタログは研究者の垂涎のまとになっている。また自店のデータベースを駆使して文献探しをする業務も強みの一つで、例えば、ルーブル美術館から美術史家アンドレ・シャステル(1912~1990年)の展示会向けの文献収集を依頼されている。
仕入れ方法として、コレクターが売りに来る、仲間から買い付ける、骨董市や蚤の市を廻るの3点を挙げたが、パリの古書業界での豊富な人的ネットワークを活用している印象を受けた。
顧客は、日本、アメリカ、ヨーロッパも含め世界中の研究者とコレクターが主体だが、最近は中国からの注文が増えている。インターネットは競争相手であると同時に、新しいクライアントを引きつける手段となっている。自店のホームページよりも、古書販売の他社のホームページを活用した販売が効果的で中国からの注文増の要因になっている。ことに1996年にカナダで誕生し、世界の古書店1万3,500店がパートナー参加しているアベブックスを通した販売が伸び筋となっている。
最盛時には9人を雇用していたが、3年前に母親の病気を機に、パリ市とフランス政府のバックアップでパリ市内の文化性が高い小規模店舗を保存・所有する組織SEMESTに店舗を売却し、現在はSEMESTから賃貸する形をとっている。しかし膨大なストックの所有は継続しており、古書への熱い思い入れに衰えがない。
広畠輝治 HIROHATA Teruji
HP : https://www.terujihirohata.com
1948年1月 横浜に生まれる。1980年から在仏ジャーナリスト。1988年にプレス・ヒロハタ社設立。主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。
やきものネット・パリ通信員。2002年4月 「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。2009年1月 「「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。
古代日本の成立
広畠輝治著 2800円
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著 4700円