No.1 Lib Mazarine
2013/2/28UP
マザリーヌ通りの名を冠したマザリーヌ書店はさわやかな白とグレイを基調とした外観で、埃の匂いがただよう伝統古書店というよりパリ左岸のシックなモード・アクセサリー・ブティックか斬新な新刊美術書を扱う書店という印象を与える。
1946年から同じ店舗で古書店が続いているが、2005年に現店主のピエール・ドュリュー氏が店を引き継ぎ、古書店のイメージを一新するインテリアに装いを改めた。キャッチフレーズも古書(Ancien、Occasion)ではなく、稀少本(Rare)と絶版本(Epuisé)を扱う店であることを強調している。
ドュリュー氏は1978年に文学・美術専門書店ラ・ユン(La Hune)に入店して書店業界に入り、1982年から2005年までパリ市近代美術館に付属する書店の責任者を務めた経歴を持ち、パリの美術書籍販売のベテランといえる。シネマテック、建築・文化遺産都市など文化施設付属の書店運営に関するコンサルタントの役割も業務の一つとしている。
「ずっと新刊書の書店に勤務していたが、洪水のように出版される新刊書の扱いに飽きてしまい、歴史的に価値が高い古書を扱ってみたくなった。地中から貴重品を発掘する考古学のようなものだ」と新刊書から古書の世界に切り替えた理由を語る。
扱う古書は、ダダ、キュービズムから始まる20世紀美術とアフリカ、ニューギニア、ヒマラヤ、シベリアなどのプリミティブ・アートの二方向に絞り込んでいる。加えて関連する展示会カタログ、サザビーズやクリスティーズのオークション・カタログ、イラストや装飾品類も販売している。
当店の一押し本はこれだ、と希少価値が高い2冊を見せてくれた。1つは、ヨーロッパに初めてアフリカのプリミティブ・アートを紹介したロシアの古書で、1917年のロシア革命の前に出版された。
もう1冊はベルギーで見つかったナンシー・キュナード(Nancy Cunard)編の「黒人(ニグロ):選集(Negro : An Anthology)」で、1934年にイギリスのWishart & Co.が出版した。内容はジャズ、美術、文学などアフリカとアメリカの黒人文化と生活を総覧しているが、出版されると米国ではスキャンダルとなり、焚書もされた、と伝えられる。
書籍の入手は個人の蔵書コレクションが主体であるが、店に売りに来る個人も多く、在庫は店内奥だけでは足らず、自宅の倉庫でも保管している。
古書販売のライバルはインターネットで、それに対抗して、珍しい物、ユニークな物を仕入れる必要がある。とは言うものの、インターネットを敬遠しているわけではなく、新しく入手した書籍はカタログに替わってインターネットで紹介する、顧客が探す書籍の問い合わせもホームページからと、積極的にインターネットを活用している。
主な顧客はドキュメント類のコレクターだが、「店主の知識が豊富で、コレクターの質問にきちんと答えられることが肝心で、お客さんとの出会いと対話が古書店経営の楽しみ」と語る。さらに店舗を
コレクターとアーティストが出会う現代のサロンとして活用するために、1960年代のコンテンポラリー芸術運動を紹介する「フルクサス前衛運動(Fluxus l'avant-garde en mouvement)」の著者シャルル・ドレイフス・ペシュコフ(Charles Dreyfus Pechkoff)氏を招いたサイン会や展示会を頻繁に行っている。
見本市会場や展示会の会場での出店販売にも力を入れており、パリの古書店の今後の方向を先取りした印象を与える。
広畠輝治 HIROHATA Teruji
HP : https://www.terujihirohata.com
1948年1月 横浜に生まれる。1980年から在仏ジャーナリスト。1988年にプレス・ヒロハタ社設立。主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。
やきものネット・パリ通信員。2002年4月 「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。2009年1月 「「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。
古代日本の成立
広畠輝治著 2800円
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著 4700円