No.17
OFR書店&ギャラリー
2013/10/8 UP

OFR書店&ギャラリーは中世以来の街から最新モードブティック・ギャラリー街に変身中のマレー地区の北端、メトロ「タンプル(Temple)駅」の近くにある。タンプルは十字軍遠征で知られるタンプル(テンプル)騎士団の拠点があった場所だが、間近な距離に工芸デザイン・モード専門学校ドュプレ(Duperré) があり、タンプル通り周辺はジュエリー問屋街となっている。

OFR書店は純然たる新刊書店でも古書店でもなく、雑貨・モード・アクセサリー類も扱っていて店の特色をつかみにくいが、いつも20代から30代の男女が出入りして賑わっている。これからの美術古書店の進む方向の一例となるような予感を与える。

店内

店名のORFは「Open Ready Free」を意味するが、1996年にマリー&アレクサンドル・チュムレル(Marie & Alexandre THUMERELLE)兄妹がパリ案内の無料誌発行を始め、3年後の1999年に、自分達が好むアメリカなど国外も含めたアート・ブックや専門雑誌を集めた書籍店を開き、2007年に奥に展示会のスペースがある現在地に移転した。休みなしで毎日の営業(日曜は午後のみ)で、 最低1週間に2つのイベントを開催、新商品を毎日販売することを売り物にしている。

雑貨販売

店内に入ると書籍が中心であるが、イラスト画、陶器に加えてサングラス、サンダル、布地バッグ、ジャケットまで点々と陳列されている。

妹店主 Marie THUMERELLE

「ORFはパリでも他に例がないユニークな店です。好きなことを自由にやっているから楽しい」と妹のマリーさんは屈託ない。

書籍展示 モード・デザイン
Marc Jacobsブランド広告
(1998~2009年)

扱う書籍類はモード、写真、グラフィズム、建築造形、インテリア・デザインと語るが、陳列棚をゆっくり見させてもらった。モード、写真家、造形、雑誌類とある程度の種目分けはされているが、意図的に配置するよりも、どさっと置いて客に宝物探しをしてもらう、というような趣向である。

書籍展示 写真家
Karlheing Weinberger
Dennis Hopper

目に付いた書籍を挙げると、モード・デザインではアメリカのデザイナーMarc Jacobs(1963年生)の「ブランド広告(1998~2009年)」、ストリート・Tシャツ・モードの「Shirt Kings 」、造形デザインでは フランスのJacques Hitier(1917~1999年)とフランス人でアメリカに帰化したLouise Bourgeois(1911~2010年)の作品集、自転車の文化とスタイル「Velo 2nd Gear」、国際イベント・デザイン「ONJ SPOT'」、写真家ではスイスのKarlheing Weinberger(1921~2006年)、アメリカの俳優兼写真家Dennis Hopper (1936~2010年)、イタリアのLuigi Ghirri(1943~1992年)、ドイツのJuergen Teller(1964年生)、雑誌・ムックでは2002年にカナダのバンクーバーで誕生し、ニューヨークとパリを拠点にするアート・文化誌「Hobo Magazine」、 ドイツ系オーストラリア人の写真家Helmutt Newton(1920~2004年)のムック「Pola Woman」など、きりがないほどである。

書籍展示 家具デザイン
Jacques Hitier

全体的にはイギリスとアメリカで1950年代末から1960年代に始まったポップ・アートの延長線上にあるが、それに造形やモード・デザインでシックなフランス・タッチを加えているような印象を受けた。

書籍展示 彫刻・造形
Louise Bourgeois

創業の原点となったパリ案内の無料誌は年ごとに発行する「Guide Paris」(パリ市内のブティックを地区別に紹介)に発展し、「創作絵葉書セット」など他の自社出版物もあわせてインターネットでも販売している。

雑誌・ムックHobo Magazine
Helmitt NewtonのPola Woman

顧客はアート・ディレクター、写真家、スタイリスト、広告ディレクター、話題や時代に敏感な人が主体である。兄妹が好きなこと、やりたいことをやり、無名か新進の若手アーティストの展示会・イベントを頻繁に開催しているうちに、アーティストの友人や仲間も集まり、アーティストの作品も売るようになった。その噂を聞いて新し物好きも店を訪れるようになり、新しいアートの発信地になっていく、という好循環のリズムに乗っている。逆に言えば、経営する兄妹にビジネス・センスがあり、アーティストや商品を選択する目が確かで、人脈造りにも長けている、ということだろう。

「ストックは倉庫に山積みになっています。古書業界の未来は非常に輝いています」と微笑むが、山積みのストックの中に将来の掘り出し物が眠っている可能性もありそうだ。

ポップ・アートや他のアート・ムーブメントの勃興時もこんな雰囲気だったのだろうか、という思いにとらわれる店である。今後、マレー地区のアート文化の発信地として、どんな若手アーティストが見出され、巣立っていくか、先行きが楽しみである。

店名
OFR Librairie & Galerie
住所
20 rue Dupetit Thouars 75003 Paris
電話
01 42 45 72 88
店主
Marie & Alexandre THUMERELLE
設立年
1996年
従業員
2人+α
OFR Librairie & Galerie

広畠輝治 HIROHATA Teruji
HP : https://www.terujihirohata.com
1948年1月 横浜に生まれる。1980年から在仏ジャーナリスト。1988年にプレス・ヒロハタ社設立。主に日経新聞社グループと電通向けに記事・レポート配信とコーディネート。 やきものネット・パリ通信員。2002年4月 「邪馬台国 岡山・吉備説から見る古代日本の成立」(制作‐コエランス酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。2009年1月 「「邪馬台国吉備説 神話編」(制作‐酉福ギャラリー、発行‐神無書房)を出版。

邪馬台国 岡山・吉備説から見る
古代日本の成立
広畠輝治著 2800円
邪馬台国 吉備説 ー神話篇ー
日本古代史をヨリ深くヨリ広く学ぶために
広畠輝治著 4700円