真美術書店では、コエランス出版(1993ー2010)の本に力を入れてご紹介しています。コエランスは17年の活動期間に、手にとって味わい深い身近に置いておきたい美術書を10数冊出版しています。陶芸家の本、日本の自然とそこで生み出される造形物の美を撮った写真集、敷居の高い祇園のお茶屋さんの本、小説家の蒐集物など、文化芸術に興味のある方なら面白く読める書籍ばかりです。美しい写真も多数収録されており、自宅の本棚に並べて置いておきたい一冊です。
書籍 : 天空の黄金 小野珀子と釉裏金彩
著者 : 小野ゑみ 発行 : コエランス 発行日 : 2006年 サイズ : 19.5 x 13.5 x 2cm 頁 : P.223 状態 : AAA ほぼ新品
価格 : ¥3,150 (税込)
著者は、珀子の息子・次郎の妻・ゑみ。珀子とともに過ごすうちに見聞きした逸話は、くすりと笑えたり、痛快だったり。愛と尊敬に溢れる一冊がこの「天空の黄金」。
「珀子はとてもわがままな人でした。いつも、本心をさらけ出している人でした。したい事をする人でした。いいたい事を言う人でした。才能、能力のある人でした。」
陶芸家・小野珀子に20年仕えた嫁が、釉裏金彩という技法を完成させ次々と賞を総なめにして脚光を浴びた小野珀子の人生を紐解く。
序文に本書のタイトルであり、小野珀子の最後の個展のタイトルにもなった「天空の黄金」についての話が書かれている。抜粋して紹介したい。
「三年前の九月。一人の男性客が私の店を訪れた。もちろん初めての、縁もゆかりもない人物。店内にはちょうど小野珀子さんの釉裏金彩の、深いグリーン色の盃が展示してあった。そのお客様は、今まで目にしたことのない釉裏金彩の美しさに心底感激している様子だった。”この辺りに銀行はありますか”とその男性。ありますとも。何と言っても当店は、歩いて30秒以内に一軒、1分以内にもう一軒、さらに青山一丁目の駅にも二軒銀行があるという立地である。早速その男性は、お金をおろしてきますと店を出て行かれた。
本当に戻って来られるだろうか。というのは、そのころ開店して間もないころで、ほとんどお客もなく、ましてやお買い上げいただけることなど稀だったからだ。
しかし、このお客様は戻ってこられた。
そして先ほどの盃を求めてくださった。これまで色々な仕事をしてきたが、代金の回収こそが営業の基本と教わり、その回収に苦労したこともあった。
それだけに、このお客様からこのような形で代金を頂戴するとは思いもつかなかった。本当にありがたいと思った。
その上、その後このお客様からは丁寧なお礼のお手紙までいただいた。
そしてこの方から一つの提案が出された。
いつの日か、小野珀子先生の個展を開いて下さいと。そして個展のタイトルは”天空の黄金"はいかがでしょうかと。
天空の黄金…この女流陶芸家の作品を形容するのにこれほど適切な表現はないと感動し心に留め置いた。それでは、”天空の黄金”を作る小野珀子さんは天空に舞う天女なのだろうか。(平成八年 酉福個展図録より)」
巻頭に8点の作品カラー写真あり。巻末に小野珀子の陶歴と著者略歴。